腎臓病について

知らないと損する腎臓病の話 -常識が貴方の愛犬や愛猫の命を守る-

日本小動物血液透析協会 会長 メディカル茜動物クリニック 院長 博士(獣医学)宮本賢治

このページでは愛犬や愛猫がいつもと様子が異なり、駆け付けの動物病院で診察や診断を受けるさいによく耳にする「急性腎障害」と「慢性腎臓病」いう病気についてお話をします。

急性腎障害(Acute kidney Injury; AKI)

AKIは一般に(1)動物の経過(病歴)、身体検査、血液検査、画像検査(レントゲンや超音波検査)などに腎臓の傷害を明確に示す、あるいは強く疑える証拠が存在し、(2)48時間以内に血中のクレアチニン濃度が0.3 mg/dl以上増加し、あるいは(3)尿が6時間以上経っても1 ml/kg/時間未満しか産生されない状態を基準として診断されます(尿量を測定しないでAKIの診断を下す先生は要注意)。

AKIの原因には動物が初めて遭遇する新規のリスク(日射病、中毒、伝染病、手術など)や既存のリスク(高齢、慢性腎臓病、心臓病、腫瘍性疾患)があり、その原因が腎臓より前の段階(腎前性)、腎臓そのもの(腎性)、あるいは腎臓より後ろ側(腎後性)から腎臓の構造や機能を傷害します。

腎臓にはそうした傷害(原因)と戦う大きな力(予備力)が備わっていますので、AKIには輸液療法により簡単に症状が消えるものから、通常の治療に反応せず、命を守るのに透析が必要なものまで、様々な状態が存在します。AKIの状態は非常に動的で、適切に治療すれば元の状態に戻すことができますが、治療が不適切で治療の時期を失うと血液透析が必要な重度な状態へと進行します。難しい話はこれぐらいにして、それでは実際の患者でそのシナリオはどのように進行するかを見てみましょう。

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症例1は5歳のオスのビーグルのお話です。3日前から急に元気がなくなり、吐き気が続き、様子を見ていたけど良くなりません。近くの動物病院を受診したところ、「腎不全」と診断され、点滴治療を2日行ってもらいました。しかし、状態は好転せず、飼い主は仕方なく転医すると、今度は造影剤による検査が行われ、尿も出なくなり、腎臓もレントゲンに映らないという理由で、透析を受けるように勧められました。
この犬の「腎不全」の原因はレプトスピラという伝染病でした。この症例には不幸なことにレプトスピラにより生じた腎傷害の他に輸液過剰と造影剤による腎傷害が加わり、そのため腎機能はさらに悪化して無尿という状態になりました。命を救うために血液透析を行い、幸いにして5回目の透析でようやく尿の産生が認められ、11回目の透析で退院することができました。

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症例2は7歳、体重2.3 kgのオスのチワワです。急に元気がなくなり、近く病院を訪れると「腎不全」ということで2日間入院治療を受けました。しかし、血液の数値はあがる一方で、病院から「最後は自宅で看取ってあげてください」と、体よく診療を断られました。その後、飼主から諦めきれないという電話を頂き、診察を開始しました。明らかに急性腎障害と肝機能障害(黄疸)の証拠が認められましたので、レプトスピラと日射病を疑い、治療を開始しました。しかし、1日経過しても腎臓の機能を示す血液の値は下がらず、黄疸もひどくなり、体力の消耗が早いことを考えて血液透析による治療に踏み切りました。3回の血液透析で腎機能を示す値は正常近くまで低下し、その後は栄養療法により順調に回復しました。レプトスピラの検査結果は陰性でしたので、腎不全の原因は日射病による二次的なものと考えられます。

新規のリスクにより発生した急性腎障害はこの2つの症例からも分かるように、原因の大きさとその後の治療の種類により生死が分かれます。幸いにして生き残った患者の一部は数ヶ月から数年かけて正常に戻りますが、多くは慢性腎臓病に移行し、適切な治療により長く生存できるのが普通です。

犬や猫の寿命

調査期間:2002年4月~2003年3月
調査対象:全国37都道府県、121の動物病院で死亡した犬3200頭、猫1800頭
比較対象:12年前の調査結果

慢性腎臓病の発生率

全米24大学 1/1/1991-11/30/2002
犬:7,209/533,473(1.4%) 猫:5,531/158,795(3.5%)

歳をとると何が起こるのか?

“細胞の数が減ることによる臓器の萎縮”

若年(g) 老年(g) 割合(%)
1330 1260 -05
心臓 250 350 +40
肝臓 1230 830 -33
脾臓 140 63 -55
腎臓 130 105 -20
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血液透析症例

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診断名で判る獣医師の実力

腎臓病 r1_12 救われません
急性腎不全 r1_12 助かりません
慢性腎不全 r1_12 長生きできません
急性腎障害 r1_12 助かる可能性があります
慢性腎臓病 r1_12 長生きできる可能性があります

腎臓のある場所

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腎臓の能力

腎重量
(g)
総根フロン数
(×104)
ネフロン数
(×104)
尿濃縮能
(尿比重)
ヒト 100 100 1 1.024
40 40 1 1.030
20 20 1 1.035
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どのように腎臓は傷つくのか?

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  • 血流の低下
  • 血管の閉塞
  • 血管の障害

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  • 血流の炎症
  • 血管の閉塞
  • 血管の障害

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  • 下部尿路の炎症
  • 尿管/尿道の閉塞
  • 尿管/膀胱の破裂

慢性腎臓病の怖さ

知らない間に徐々に悪化する

腎臓の機能が正常の75%以下に低下しないと明らかな症状が現れない

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致命的な疾患

不治の病

慢性腎臓病を発見する手掛かり

年齢 r1_20-21
体重 食べているのに体重が徐々に減少(体重の10%低下は初期症状)
尿量 尿量は変わらないが、回数が増加しつけの良い子が夜中におもらし

慢性腎臓病の怖さ

飼主/獣医師/友達の疑い

病院での精密検査(12時間以上絶食後)
X線/超音波検査
赤血球数/Hct
血漿クレアチニン濃度
尿比重

3. 糸球体濾過量の測定(PCio)

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食道瘻チューブ

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胃瘻チューブで何ができるのか

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多くの治療を飼い主が行える
必要な水分/栄養を全て与えられる
経口投与できる薬を全て与えられる
自発的にも食餌や飲水ができる

家庭でペットとして暮らせる時間が長くなる

  • 只今、食餌中

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  • 食後のお散歩

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