命の泉

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36年の臨床経験と3年の米国留学を通して腎臓病学を勉強した獣医師が最後にたどりついた治療法、それが血液透析です。2008年に日本小動物血液透析協会を設立し、この6年の間に多くの動物を腎臓病の死の淵から生還させることができました。
このホームページは血液透析の普及を目指して新たに創設した獣医腎臓病研究会が、不幸にして「腎臓病」と診断された愛犬や愛猫の飼い主に対し、専門家の立場からその病気や治療法について正しく解説し、不必要な不安を取り除くことを目的に開設したものです。
獣医師が腎臓の病気を表すのによく使う言葉に「腎臓病」「腎不全」「急性腎障害」「慢性腎臓病」などがあります。最初のページではその耳慣れた言葉の説明から始めます。

腎臓病

「腎臓病」という言葉の前に「急性」や「慢性」という前置きが無く、単に腎臓病だけという診断であれば、それほど深刻になる必要はないと思います。
それは、腎臓病が「腎臓に何らかの構造的や機能的な障害が存在する状態」と定義されており、その中には障害が軽くて全く症状が認められないものから、今にも死にそうな尿毒症の症状まで、幅広い病態が含まれています。
そのため、この言葉は実際の診断や治療ではほとんど役立たないのが普通です。

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腎不全

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腎不全は「腎臓が本来行うべき機能を全く行えない状態」と定義され、腎臓は体内から毒素や水をうまく排泄できず、血中に存在する様々な物質の濃度も調節できません。
したがって、その症状には素人の飼い主にもはっきりとわかるものが含まれているはずです(嘔吐、食欲不振、尿量の低下や増加、血液の中のBUN、クレアチニン、リンなどの増加など)。
しかし、腎不全には「BUN, クレアチニン、あるいは尿量がどの程度に増加や減少した場合に診断できるか」という明確な基準がありませんから、専門家の間ではもはや「腎不全」という言葉はほとんど使われず、使用される場合は「急性腎不全、即ち、ネフロンという腎臓の重要な構成単位の中の尿細管が急激に壊れた重篤な状態」や「末期の慢性腎臓病、即ち血液透析や腎移植が必要な状態」という限られた状態を表しています。
残念ながら、一般の開業獣医師はこのような状態を管理する能力を備えていませんから、診断名が「腎不全」だけという場合は「腎臓病に詳しくない先生」と判断し、必ず専門医に相談することをお勧めします。

急性腎障害(昔は急性腎不全と言われていた病気)

急性腎障害は48時間以内における血中クレアチニン濃度の上昇(≧0.3 mg/dl)あるいは尿量の低下(0.5 ml/kg/時間)という基準で診断します。
この障害は軽度から死に至る状態まで、時間と共に急激に変化するのが普通で、適切に治療すれば完全に元の状態に戻れますが、不幸にして病状が好転しない場合は、動物は死亡します。
したがって、「急性腎障害」や「急性腎不全」と診断された場合は、受診した病院で通常の治療に加え、その治療に病気が反応しない場合に透析治療が行えるか、あるいはそうした病院を紹介して頂けるかを聞いておきましょう。
通常の内科療法に反応しない患者は飼い主の「命を守る」という情熱だけが命のより所です。
急性腎障害について興味をお持ちの飼い主は「急性腎障害の診断と治療」の項をお読み下さい。

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慢性腎臓病(昔は慢性腎不全と言われていた病気)

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慢性腎臓病は「腎障害の証拠が3ヶ月以上存在している状態」と定義されています。
したがって、診断には3ヵ月程度の時間と2~3回以上の血液検査、尿検査、および血圧の検査が必要です。
最初の1回の検査で「慢性腎臓病」と診断された場合は、急性腎障害の場合と同じで、「腎臓病に詳しくない先生」と判断し、必ず専門医に相談することをお勧めします。
慢性腎臓病はヒトでは長期の血液透析が可能ですから、治療可能な病気で すが、犬や猫の場合はそうした治療がほとんど受けられないため、依然として「不治の病」です。
この不治の病が手短に入手できる「腎臓病食」、「毒素吸着活性炭」「水素水」「ある種の栄養補助食品」などで「治る」とか「消失」することは絶対にありません。
私たち、獣医師の役目は残された腎機能の程度に応じ、動物の生活の質を保ちながら、できる限りの延命方法を見出すことです。
それは現在の慢性腎臓病がどのような状態にあるかを正確に把握するところから始まります。
慢性腎臓病について興味をお持ちの飼い主は「慢性腎臓病の診断と治療」の項をお読み下さい。